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会長のひとこと


【人生クライマー】を観て

会長の日々思うこと、山の話、道具の話等、毎月更新しています。

  先日、横浜で山野井泰史さんに密着したドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』を観てきました。
 10歳の時、テレビで流れていた「モンブランへの挽歌」を観たことがきっかけで、登山に興味を持つようになり、おじさんに連れられていろんな山に登り、山に魅せられていった。そして卒業アルバムに無酸素でエベレストに登ると書くほどに山好きな少年になっていったようだ。
 そして高校生の時、岩と雪』90号の「マカルー西壁 英ポ合同隊の挑戦」と題された記事とともに掲載されたマカルー西壁、ポーランドのヴォイテク・クルティカとイギリスのアレックス・マッキンタイアですら寄せ付けない7800mから始まるオーバーハングしたヘッドウォール、その写真に釘付けとなってしまった。それは明確な目標ではないけど常に意識するもとなり、心にはいつもマカルー西壁があった。
 実は、山野井さんは輝ける登攀歴とともに、敗退した山もかなりの数に上るようである。
世間を気にするとか、他の登山家との競争意識とかを気にすることなく、自分が行きたいところ、誰も成し遂げてないルート、それを登るんだったらこのラインが一番きれいだよなっていうラインで登る。敗退してもけしてあきらめない、新たに挑戦を続けてきた。
 2002年、ギャチュン・カン北壁では登攀(とうはん)に成功したが、下山中、嵐と雪崩に巻き込まれ重度の凍傷に罹(かか)り、両手の薬指と小指、右足の全ての指ほか計10本を切断する重傷を負っている。それでも山に対する熱意は冷めることなく、新たな挑戦を続けていく。
 これだけの実績があり生きていることが奇跡でかつては「天国に一番近い男」と呼ばれていた。でもこの映画を見て感じたのは非常に謙虚だということと自分自身を信頼しているということ、自信があるというよりも自分の技量を理解しているということかな。後は本能的な危険察知能力も高いのかと思います。
それと妙子さんの存在が大きいと思う、常にサポートしていて、時には一緒に上ることもあるし、ベースキャンプで状況を掴んで山野井さんに助言することもある。山野井さん自身より山野井さんの技量を、性格を理解しているのかもしれない。
 映像の所々で栗城史多さんとかぶるところを感じた、自分だけかもしれないが、もし栗城さんにも山野井さんに妙子さんがいたように、同じ気持ちを持った女性がいたならあんな悲劇は起こらなかったのかと感じた。山が好きだという気持ちはきっと同じだったと思うので。
 このドキュメンタリ映画は山野井泰史と妙子という二人の人生ドラマだと感じた。好きなことをやって生きるということ、その舞台が8,000mの高所登山だったり、クライミングであったということ、小学生の時に思い描いた気持ちを、山が好きだということを人生の目標としてやってこれたことがとても素晴らしいことだと感じました。(りょうま)